2017-07

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vol.31(最終章) さよならと旅立ちと。

29.jpg

やぁ、みんな。なにもないこのブログに、いつも来てくれてありがとう。
ずっと無菌室に軟禁状態で、なかなかここに来られなくて申し訳なかった。
それでもここに来てくれていたみんな! みんながくれたたくさんのコメントに勇気づけられたよ。
実際、涙が出るほど嬉しかった。

ブログを始めたころの俺は、そんな人の優しさなんか上っ面のもので、金でなんでも買えると思っていた。
だけど、わかったんだ。
人間には金なんかじゃ買えない時間や想いがあるってこと。
そして、健康ってやつも。
「死」は老いも若きも、オトコもオンナも、そして金持ちも貧乏にも等しくやってくる。
そりゃ金にまかせて事故にあわないような環境を作ったり、病気にならないようにお抱え医者をやとったりなら出来るだろうさ。
それでも確実に「死」はやってくるんだ。
俺は・・・病気になって、やっとわかったよ。
「死」はそれほど怖いわけじゃない。
怖いのは、死ぬことによって大切な人を守れなくなることだ。
心を残して、無になってしまうことだ。

ずっと点滴に腕を繋がれる毎日の中で、俺は考えたよ。
何かで読んだことがあるんだけど、人間はどんな死に方をするかよりも、どんな生き方をするか、だってね。死に様より、生き様なんだ。
それは本当に当然といえば当然のことなんだけど、それじゃあ今までの俺の生き様ってなんなんだろうって・・・・・・。
むろん胸を張れないことだってあったけど、それでも自分自身に嘘をつかずにやってきた。誰にも迷惑をかけずにやってきたはずだった。
ところがさ、結局のところ俺は何もわかっちゃいなかったんだ。
たった一人で生きてきたつもりだったのに、いろんな所で、いろんな人に関わりながら生きてきたんだ。
それも・・・迷惑もたっぷりとかけてね。(((爆)))

そんな俺が「死」を怖いと思ったのは、その大切な人を見つけたからなんだ。
今の俺は、彼女を残して、夢を残して・・・居なくなるなんてこと、もう考えられないよ。

愛しているよ ろず・・・。

ごめん。みんな。びっくりしたよね。
ろず・・・「rozurose」とは、このブログで知り合った。
だからみんな知ってるとは思うけど、俺の甘えん坊の記事に唯一辛口のコメントを残してくれたのは、ろずだった。
初めは、俺を甘やかさないコメントに、物珍しさから話をしてみたかった。ろずに母親を感じていたのかも知れないね。
ろずは、堅い守りで俺をなかなか招き入れてくれなかった。
滑り込むのに苦労したよ。今は笑い話だね。
俺の生みの母親と会うときに、背中を押してくれたのはろずだった。
仕事で疲れた俺を、癒してくれたのもろずだ。
ある晩ふたりで携帯で話しをしてて、見上げた空に流れ星を見つけたのには感激したよ。
何しろ、何時間も離れた場所で見上げた空なのに、まるで隣り合って流れ星を見ているような・・・そんな感覚だったからね。
これは一生忘れないよ。
そして・・・凹んで病気を治そうとしない俺を、叱ってくれたのもろずだった。
恐いけど、サイコーの女さ、俺にとって。
今まで、ろずに守ってもらっていたような俺だけど、これからは俺がろずを守る。

ずっと俺を見守っていてくれたみんなに誓うよ。
あのときの、あの星月夜にも誓う。
もう後戻りしない。

励ましてくれたみんなのお陰かな。
俺、そろそろ退院できそうなんだ。
前から言ってたホストクラブも、やっと開店できそうだ。

そして・・・・・・俺は・・・今日でこのブログを卒業する。
しばらくPCに向かうことも難しそうだしね。
退院すれば、退院したで忙しくなる。
いつ戻ってくるかは約束できないけれど。
また、みんなに会いに戻ってくるよ、きっとね。

俺に勇気をありがとう。
優しさをありがとう。
忘れないよ、みんな。
星月夜の晩は、俺とろずがいたことを思い出してくれ。
夜空をながめる俺たちを思い出してくれ。
この空は、きっとみんなの空と同じ空だから。

                                               感謝をこめて。蓮





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vol.30 再会。

tulip_y01.jpg


無菌室に入ってからの蓮は、ただ寝ることと少量の食事を口にすること、そして点滴との戦いだった。
白い肌は一層白くなり、トイレ以外は殆どベッドから降りることもない。
サイドテーブルの上に置いたノートPCも開くことは殆どなかった。

東子を普通の女子大生からキャバクラ嬢にしてしまったこと、「もう二度とあなたには会わせない」という東子の母親の言葉、そして何よりも「蓮がわたしをこんな女にした」という東子の捨て台詞。
目をつぶると今まで貢がせたり、騙したり、モノのように扱ってきた女たちの顔が次々と浮かんでくる。
それも、ひとりひとり名前を覚えているかというと、ちっとも自信はない。
「顔と身体は覚えてるんだけどな。」そんな独り言を言ってみたりする。

ホームの施設長や頼子や先崎に心配かけてるだろうな。よっぴー・・・子どもたちも「お兄ちゃん来ないね」って不審がってるだろう。
せっかく店を借りる契約はしたものの、このままじゃ開店はおろか準備だって出来やしない。店で使う男の子たちの面接もしなきゃならない。

・・・そして・・・ろずだ。
今ごろ、どうしているんだろう。
裁判も気にかかる。
彼女、洲と一緒に住めるんだろうか。
ろず・・・ずっと声を聞いていないよ・・・。

母を恋しがる子どものように、ろずを求める蓮だけれど、今はこんな無菌室にぶち込まれて看護婦の管理下にある。
せめて、電話の声を聞きたい。
でも、俺にそんな資格があるのか?
会いたいよ、ろず。
会えないよ・・・ろず。

眠れない夜、月明かりに誘われて窓際で空を仰いで見る。
あれはいつかろずと同時に見た、同じ月なのかな。同じ星なのかな。
あのときは幸せに酔っていたけれど、今は最悪だ。
そばに居ないろずを近くに感じたあの時。
今は冷たい白い壁がふたりを遮る。
いや、モノばかりじゃない。距離ばかりじゃない。
ろずが遠い遠いところへ行ってしまったような、そんな空虚なココロをどうすればいいんだろう・・・。
今夜も凍えた猫のように、涙でずぶ濡れになって丸まって眠るんだ。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「・・・今日もあいにくの雨の一日になりそうです・・・これでゴールデンウィークも、残すところあと2日・・・」
テレビでお天気お姉さんが、今日の予報を読む声が聞こえてくる。

そうか・・・下界はゴールデンウィークか・・・さぞ東京はガランとしてるんだろうなぁ。
窓越しに雨降りの風景を眺めながら、いつまでこの状態でカンズメされればいいんだろうとつらつらと考える。
ベッドで横になっているだけの人生ならば、もうすべてが終わってしまったも同然だと思うのだ。

毎日恒例の回診が終わったあと、ドアを出て行こうとした看護婦の一人が「あ」と思い出したように戻ってきた。
「沢村さん、そういえば昨日お見舞いの方が見えたんですよ。」
「見舞い?」
昨日は発熱して一日中うとうととしていたのだった。
熱がひどく上がれば薬で下がりもするが、38℃前後をいったりきたりでは体力だけ消耗して寝ているほかはない。
「熱があるので面会は・・・、とお断りしたらお帰りになっちゃったんですけどね。」
「だれ?」
蓮はまた先崎か、そうでなければ頼子が先崎に聞いてやってきたのかと思った。
「綺麗な方でしたよ。鈴村さん、っておっしゃってました。」
ポケットから取り出したメモを見ながら、看護婦がその名前を言った。

鈴村・・・鈴村 翠・・・彼女だ!ろずだ!
あまりにも連絡ができないから会いにきてくれたのか・・・。そんな時に熱など出して機会を逃すなんて、なんて情けない俺の体・・・。
これほど会いたくて会いたくているのに会えないなんて、やはり何かが狂ってきてる。
俺の中の地軸がまっすぐに貫かれていないんだ。
看護婦が出て行った後、蓮は顔を枕に押し当てて声を殺して泣いた。
すぐそばまで来てくれたろずに会えなかったことが、とてもとても切なかった。

雨の午後は昨日からの熱のせいか倦怠感がひどく、うつらうつらしていた。
ノックの音がしたような気がして、それでもなかなか首をドアの方に向けるのもかったるく、もう一度目をつぶった。
白衣を着けてマスクをかけ、頭には白いキャップ。
看護婦かと思ったが、どこかで見たことがあるような目だ。

潤んだような瞳・・・

「翠!」
慌ててベッドに起き上がる。いや、起き上がろうとしてもなかなか体が上がらない。
ドアに向けて両肘をベッドにつき、やっと上半身をろずに向けた。
「翠・・・」
「陸、だめじゃない!」
久しぶりのろずに、ハグしてもらえると思っていたら、ぴしゃりと叱られた。
何のことか判らずにぽかーんとしていると、ははぁ、この前の東子との一件を看護婦に聞いたのかと勝手に解釈し、蓮は弁解を始める。

「あ・・・翠?あの・・・この前の時はごめん。いきなり電話が切れちゃって。教えもしないのに前に付き合ってた女がいきなり現れてさ・・・」
「陸ったら!そんなことじゃないわよ。」
「え?」
「あなた、食事を殆どとらないんですってね?病人が病気を治そうとしないでどうするの?」
「あ・・・あのぉ・・・」
「だめよ、誤魔化しても。あなたは身長ばかり高くて、ちっともお肉がついてないんだから。ご飯を食べずにどうやって病気と闘うの?」
「いや・・・そんなことは・・・」
「点滴で栄養摂ってるからいいなんて、思ってないわよね?人工的に栄養を摂らされるのと、自分から進んで栄養を摂るのと、どっちが健康的?答えなさいよ!」
「そ、そりゃぁ・・・ご飯・・・」
勝ち誇ったように、ろずが鼻をフン、と鳴らす。
「ほーら、わかってるんじゃない!だったら、しっかり食事を摂って栄養をつけて。病気を治して。そうしないと、わたしのこと迎えに来られないじゃない。」

蓮はろずが何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
「迎えに・・・って・・・」
そのまま蓮はろずを見つめたまま、しばらく動かなかった。
「迎えに・・・って・・・翠?」
呆けたように同じ言葉を繰り返した。
「あ・・・もしかして・・・翠、もしかして!」
「そう!家裁でね、洲といっしょに暮らせるって判決が出たの!わたし今、洲といっしょに住んでるのよ!」
「翠!そうなのか!」

蓮は洲に会ったことはないけれど、ろずが息子と一緒に暮らせることが自分のことのように嬉しかった。
「え・・・?それで今日は洲は?」
「実家に預けてきたわ。昨日もよ。昨日も今日も、二日続けて茨城に来ちゃったわ。遠いなぁ!」
「もうじきつくばエキスプレスが開通するよ。そしたらすぐだ。秋葉原から1時間もかからないよ。」
「その秋葉原まで家から1時間かかるのよ。待ち時間入れたら往復5時間くらいかかるわ。」
「そんなの!そうかぁ・・・洲といっしょかぁ・・・会ってみたいな、洲に。」
「だから・・・ね。早く元気になって、わたしたちを迎えにきて。」
「・・・うん。」

そうか、ろずは一歩も二歩も前進してる。
それなのに、俺は後ろ向きに戻ってる。
過去の過ちの亡霊にとり付かれ、病気を治そうという気持ちにもなれないなんて。
本当にどうしようもない男だな。
もう二度と過去に戻ったりしない。
病気なんか気で治してやる。
俺には守るものが沢山あるんだ。
「あすなろホーム」、施設長や頼子、店も開店に向けて動かないと。
そして、ろず。彼女と息子を守るんだ。

優しい言葉や見舞いの言葉より、点滴や薬より、ろずの叱咤激励が効いた蓮だった。

vol.29 愛と憎しみ。

garbe2.jpg
4月とは言え、今日は春風も少し冷たかった。
「東子はね・・・」
東子の母親は、重い口を開いた。
「あの子はあの時、東京へ行ったんです。」
「聞きましたよ。歌舞伎町に居たんですね・・・」
「蓮さんのいたお店を訪ねたあと、また東子の同級生に何度も訊いてみたんです。その時は誰も知らないって話だったんだけど・・・1ヶ月ほどして、そのうちの一人から連絡がありました。東子から電話があったって。」
「そうですか。」
「東子はね、歌舞伎町の・・・ふぁ・・・ファッション・・・」
「あ・・・わかります・・・」
「ええ、ごめんなさい。そういうところ、よくわからないから・・・。そこで働いていたらしいんですが・・・電話があったからといって、住んでるところもわかったわけじゃないし、お店の名前も聞かなかったっていうんで・・・とにかく、あの子の携帯を何度も何度も鳴らすしかなくて・・・」
淡々と話す母親だった。
「それでね・・・諦めずにかけ続けた携帯に・・・東子が出たんですよ。」
「ええ・・・」
「それが、ほんの一月まえだったんです。」
「じゃあ・・・」 
「そう、4か月も連絡が取れなくて、やっとつかまえたと思ったら・・・あの子、妊娠してました。」

さわさわと吹いていた風が、ぴたりと止まった気がした。
蓮は・・・妊娠、という意味がとっさには理解できなくて、それでも妊娠=子どもという図式だけは頭の中にあって・・・。
気づくと腋の下にべったりと冷や汗をかいていた。

「・・・その・・・子どもって・・・」
ああ、と母親が合点して、首を横に振った。
「ごめんなさいね。沢村さん、吃驚したわよね。あなたの子どもじゃないわ。妊娠に気づいたばかりの2ヶ月だったから。」
蓮はほっとしたものの、東子が妊娠していたのがもし自分の子どもだったら・・・東子に暴力を振るってしまって病院に運んだあの日に、仮に東子が妊娠していたら・・・と考えると、恐ろしくて東子の母親の顔を正面から見ることなど到底できなかった。
「東子は・・・歌舞伎町のお店で働いているときに、またホストの人と付き合っていたらしいんです。・・・あ、ごめんなさい。」
「いいんです、実際、俺、ホストですから。」
母親は何度も謝る。そんなことどうでもいい。
その子どもはどうなったんだろう。
東子は妊娠しているようには見えなかった。

「何なんでしょうね・・・何のために歌舞伎町なんかに行って、そんないかがわしい仕事をしていたんだか・・・わたしにはわかりません。」
あの日、東子が言っていた「蓮にふさわしい女になるため。蓮を自由に余裕で指名できるような女になるため。」・・・そんなことは、母親に言えるわけもなく・・・。
そうまでして出奔した東子なのに、ファッションヘルスで働くうちに、また他のホストに入れ込むようになってしまったのか。
東子をそんな女にしてしまったのは、俺なのか。
やはり・・・?

「相手は、東子とどうにかなろうとかは考えていないような男だったらしくて・・・そりゃそうですよね、東子が馬鹿なんですよ。」
いや・・・馬鹿なのは東子ばかりじゃない、俺が一番・・・と、言いたいのを堪えてシーツを握り締める。
「急いで連れ戻しに行って、病院に連れて行きました。」
「・・・子どもは?」
「処置してもらいました。」
辛そうに目をつぶって母親が言う。
「・・・東子はいやだ、って我を張ったんですけど・・・当たり前ですよね。女は妊娠したとたん、母親になるんですもの。」

蓮は、自分を捨てた母親もきっとそうだったんだなと思う。
身ごもった途端に母親の心持になったに違いない。
そして、紆余曲折があって自分を手放すことになったのだろうけれど、やはりああやって会いにきてくれた。
蓮はそんなふうに思える自分が、ずいぶん丸くなったんだなぁと感心する。
あれほど母親を憎んで、世間までにも背を向けて生きてきたことが、今となっては夢のようだ。

「それは・・・かわいそうなことをしました。」
それが東子がかわいそうなのか、処置されてしまってこの世に生まれてこられなかった子どもがかわいそうなのか、どっちともつかずに口から出た言葉だった。

「処置をしたのは、この病院だったんですよ。」

その言葉で蓮はあっと思った。
そうか・・・それで俺の入院していることを知ったのか。

「この町は、わたしの実家があるんです。処置をするのに千葉ではなく目立たないように茨城を選んだんです。」
「そうだったんですか・・・」
「東子が退院するのにわたしがついてタクシーを待っているとき、あなたが病院に入っていく姿を見かけたんですよ。でもまさか・・・東子があなたの病室まで行くなんて考えてもいませんでした。しばらく実家に預けていたから、わたしが気づくの遅れたんです。」
「・・・」
「歌舞伎町で男の人と暮らしていたから、沢村さんのことはもう忘れたのかと思っていたのに・・・」
「・・・違いますよ・・・それは・・・」

実にはっきりと、蓮は確信しているのだ。
「東子は・・・憎んでいるんです。」
「え?」
「俺のことを・・・」
「・・・」
「きっと同棲していたその歌舞伎町のホストのことも・・・多分。」
「憎んでいるって・・・だって子どもまで・・・」
「愛情と憎しみは裏返しだって言うじゃないですか。きっと、彼女をあんなふうに出奔させるようなことをした俺のことも・・・子どもを堕ろす事態になった相手の男のことも・・・そして、子どもを堕胎させたあなたのことも・・・」
「そんなっ!わたしはあの子のことを思って!」
「東子は悪くないんです・・・俺が・・・俺が彼女を傷つけた。」
結局、蓮はあの日の出来事を母親に話すほかはなかった。
そして・・・そうしてしまった自分の過去を話さずにはいられなかった。

黙って東子の母親は聞いていた。


聞き終わった母親は、そっと立ち上がりお辞儀をした。
「沢村さん、あなたのこれからが幸せでありますように。二度と東子はここに来させません。安心してください。」
蓮は、彼女を見ることが出来なかった。

「お大事に。」
そう言って彼女が出て行ったあとの空気は、風が通っているのにどこか滞っているような、そんな春の匂いがした。

vol.28 ホストの純情。

blue.jpg
「な、東子。ちょっと落ち着いてくれよ。」
蓮が東子を優しくたしなめる。
うっうっ!と嗚咽を漏らしながら、東子は椅子に腰を下ろした。
この騒ぎは病室の外にも聞こえているんだろうな・・・周りの病室の連中は、どうなることかと息を潜めて聞いているだろう。

泣きたいのはこっちの方だ。
さっきまで東子に悪いことをしたと謝っていたのに、逆上されて、反対にまた目の前の東子の存在を重荷に感じる自分が居る。

「東子・・・泣くなよ。」
「・・・くやしい!」
「東子!」
「やっと蓮を見つけたっていうのに・・・あれから半年も経ってないのに、もう他の女がいるのね。」
「違う!東子。俺・・・わかったんだ。」
「何よ、何がわかったのよ。女を喰い物にしかできないホストのくせに!」

「その愛を知らないホストが、大切にしたいひとを・・・本当に大切にしたい人を見つけたんだ。」

「なんですって!?」
売り言葉に買い言葉。
今の東子に、ろずのことを言ってはいけなかったんだ!
気づいたときには遅かった。

なりふりかまわず、東子は口から泡を飛ばして蓮を威嚇する。
「ふざけないでよ!何様よ!さんざん女を物のように扱って!いまさら愛、ですって?なんなのよ!」
「何だよ!俺が人を愛しちゃいけないのか?俺は幸せになっちゃいけないのか?」
「蓮が愛だなんて、ちゃんちゃら可笑しいわ!あんたは女に金で買われるペットじゃない?ベッドが仕事場のエロホストじゃないっ!それが今さら純情ぶって!いい加減にしろっていうのよ!」
「黙れ!」
「あたしをこんなに落としたのは、蓮!あんただからね!いい?忘れないでよ!あんたがあたしをこんなにしたのよ!」
言い捨てて、病室のドアを乱暴に開けて駆け出していく東子。
蓮も、東子に対する怒りが白い顔を真っ赤に染めていた。

翠・・・俺は・・・俺のしてきたことは、そんなに非道なことだったのか・・・?
誰かに愛されたいのに、片意地を張って生きてきた23年間。
自分を捨てた母親の呪縛からやっと逃れられたのに・・・やっぱり自分のしてきたことは・・・今の自分に返ってきてしまった・・・!
俺が誰かを本気で愛しちゃいけないのか?
俺には資格がないのか?
翠・・・教えてくれ・・・翠・・・!

また眠れない夜を数えた。


次の日から看護婦や周りの病室の人たちの目が、今までにも増して好奇心に溢れているのを感じた。
努めて知らん顔をしているが、好奇の目で見られるのはいい気持ちがするわけがない。
「沢村さん、血圧低いわよ。食事もあまり食べてる様子がないし・・・困ったわねぇ・・・」
蓮の病室で血圧を測りながら、主任ナースがこぼす。
天井を眺めながら、蓮は言葉を発しない。
「慢性骨髄性白血病の治療はね、体力がないと無理なのよ。」
「・・・」
「薬物療法が始まったら無菌室に入ってもらいますよ。それまでに、少しは体力をつけてもらわないと。」

蓮は今日の回診で、あのメガネの医師から【慢性骨髄性白血病】と診断結果を伝えられていた。
その治療に当たっては本人の合意が必要なわけだけれど、まもなく始まる薬物療法に耐えられる体力も精神力も、今の自分にあるとは思えない蓮だった。
「ねえ・・・沢村さん・・・?」
「・・・」
答えない蓮に向かって深く溜息をつくと、主任ナースは手早く血圧計をワゴンに片付けて、静かに部屋を出て行った。
その日は鬱々とトイレ以外は部屋から出ずに寝て過ごし、PCノートも開かないままだった。
あれから・・・3日前の東子との騒動以来、ろずとは連絡をとっていなかった。
拭いきれない自分自身の過去はどうしようもないけれど、それが今になってろずと自分の将来にまで、その長い爪を伸ばそうとしている。
いくら自分で蒔いた種とは言え、やはりこういう事態になると今までの自分を抹殺したくなる。
ろずに合わせる顔もなかった。

ベッドに横になって、つらつらと色々なことを考えながらぼんやりしていると、トントントンとドアをノックする音が聞こえた。
「・・・失礼します・・・。」
そっとドアから覗いた顔が、東子かと思ったので、慌ててガバっと飛び起きる。
すると入ってきた人は、あの街角で見かけた東子の母親だった。

「その節はどうも。」
静かにお辞儀をすると、持っていた小さな花束をサイドテーブルに置いた。
「良かったら・・・飾ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
蓮は、今日まともに言葉を発したのが、東子の母親に言ったこの言葉が初めてだということに気づいて苦笑いをした。
「あの・・・」
「・・・」
「東子、来ましたでしょう?」
「・・・はい。」
「きっと失礼なことを言ったんでしょうね。」
蓮は黙って首を振った。
「ごめんなさい・・・」
東子の母親が謝ることではないけれど、あれはあくまでも東子と蓮の間の出来事だったのに、娘の無作法を謝罪する母親に、蓮は何故か懐かしさを感じた。
そうか・・・俺の母親も何度も謝っていた。あの喫茶店で。
初めて向かい合う自分の子を、どう扱っていいかわからずに、ただ謝っていたっけ。

そうしてふたりは、窓から入ってくる春の風を受けながら、しばらく黙って外を眺めていた。

vol.27 元カノ。


東子・・・俺が傷つけて壊してしまったガラス細工。
女子大生らしいストレートの長い髪。
蓮が愛した左目の泣きぼくろ。
泣いているかのような潤んだ瞳とその微笑。

・・・いま、俺の目の前にいる女は誰だ?
ウェーブが伸びて、だらしなく目にかかる金髪の髪。
ダイヤのピアスはいかにもイミテーションらしく見えるし、黒いミニタイトのワンピースにはラメが散りばめられている。
ありとあらゆるアクセサリーを身につけて、それが東子が歩くたびにジャラジャラと煩い音をたてる。ネックレスもブレスレットもアンクレットも・・・
どうみても水商売の女としか思えない。
これが・・・東子か? 

「あら、蓮。お久しぶり。病気だなんてご愁傷さまなことね。東子ちゃんがお見舞いに来ましたよ~」
「・・・東子・・・」
受話器を持つ蓮の手が震えた。
「陸?どうしたの、陸?」
受話器からはろずの声が聞こえる。
その声が蓮にはとても遠く聞こえた。そう、とても遠く・・・。
「あら?電話中だった?ごめんなさい。」
「・・・」
「彼女?」
蓮の手から受話器をすっと抜くと、ガチャン!と音を立ててフックに戻す。
ああ、ろずが心配するだろうな・・・蓮はこんな時なのに、今からの自分のことよりも、ろずの方が心配になる。
「ほら、もう安静時間だから部屋に戻りましょうよ。あたしが看護してあげるわ。」
東子の後ろで、彼女を追いかけてきた看護婦たちが、3人ほど様子を伺っている。
「悪い、東子。安静時間ってことはお見舞いもお終いだよ。」
「いいの、いいの。あたしは。」
ほらほら!と声をかけながら、蓮の背中を押していく。
あの大人しくて蓮に追随していた東子とは思えなかった。
後ろの看護婦たちに右手で申し訳ない、とジェスチャーをしながら、東子に押されるまま個室へと戻っていく。

「さて、っと。」
東子は、ストンとベッドの傍の丸椅子に腰掛けた。
蓮はしぶしぶベッドに座り、東子の言葉を待つ。
「元気そうね、とは言えないみたいね。」
「君は元気そうだね。」
「お蔭様で。今や歌舞伎町のアイドル《えんじぇる》ちゃんよ。」
「お水になったのか?」
「ま・・・ね。」
しばらく、重苦しい空気が二人を包んだ。
言いたいけど、言えない。
お互いを見てるけど、見てない。
蓮のサイドテーブルの上に乗っている時計の、カチカチという音だけがやけに大きく聞こえる。

ブルーのマスカラを幾重にも塗ったらしい睫毛は、ばさばさと東子の瞳を彩る。
「何から話せばいいんだろう・・・。」
重い口を開いたのは、蓮の方だった。
蓮は東子に会ったら絶対に言わなければ、と心に決めていた言葉がある。
今、それを言うときだ。

「東子、悪かった。俺の自分勝手な我がままで東子を傷つけた。」

「なに?蓮?どうしちゃったの?」
思いがけなく蓮がしみじみと謝ったからだろうか。
東子は心底驚いた様子だった。
「俺は愛し方を知らない男だった。ごめん!」
「・・・」
「東子を殴ったり蹴ったりしたけど、あれは・・・あれは自分を殴ってた・・・蹴ってたんだ・・・」
「・・・」
「東子を傷つけて、ボロボロにして・・・だけど・・・無垢に俺を信じてくれてたお前が・・・お前のことが苦しくて・・・」
「蓮・・・」
東子の険しかった表情が、ゆっくりと緩んでいく。
みるみるうちに瞳を潤ませて、東子はうつむいた。
「東子が居なくなった後、お前の母親が尋ねてきたんだ、店に。」
「そうだったみたいね。」
「ただ淡々とお前の行方だけを尋ねて、俺のことはまったく責めもしなかったよ。」
「・・・」
「それが・・・かえってすげー辛かった・・・」
「・・・蓮?」
「なんだい?」
「あたしが居なくなって・・・悲しかった?辛かった?」
「・・・」
しばしの沈黙の後、蓮が口を開いた。
「正直に言うよ・・・」

「・・・ほっとしたよ・・・」

うつむいたまま、東子がふふふ・・・と声を漏らす。
「そう・・・だよね。重い女なんて、いらないよね。」

「・・・でさ、あたしはあれから・・・杜萌さんがマンションに送ってくれたあと、思い立って家出したのよ。家出、って変?変よね、自分しか住んでなかったマンションから居なくなるのを家出だなんて。」
「マジ、心配したよ。いや、ほっとした気持ちとは別に、何処に行ってしまったんだろうって・・・」
「いいわよ、無理しなくても。」
「無理してるわけじゃない。暮れに東子のお母さんを見かけたんだ。あの街で。そのときだって、東子は何処にいるんだろうって・・・」
「蓮に似合う女になりたかったの!普通の女子大生じゃ蓮の重荷になるだけだもの!」
「東子・・・」
「ホストクラブに行ったって、蓮を余裕で指名できるような・・・そんなクラブのトップホステスになりたかったのよ!」
「お前・・・」
「蓮の浮気にさばけた態度をとった振りをしたのだって・・・蓮に殴られるよりイタかったのよ!」
「・・・」
「蓮に愛されたくて!蓮を独り占めしたくて!」
「・・・」
「叩かれて、それで蓮があたしを見ててくれるなら・・・それだけで!それだけで良かった!」
東子のブルーのマスカラは流れて目の下を黒く縁取っている。
流れるものを拭おうともせずに、東子は立ち上がった。
「それ・・・なのに・・・蓮は・・・あなたは幸せそうに笑ってた。さっきの電話は誰?相手は誰?女なの?営業じゃないの?」

いいんだ・・・東子には酷いことをした。
これくらい言われるのは当たり前だ。

しかし・・・東子はどこで俺がここに、この病院に入院していることを知ったのだろう。

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