2017-07

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Marriage/知美の場合(3)

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知美は「山本さん」の運転する白いファミリアの助手席で、
ギアを操作する「山本さん」の白い手を見ていた。

本当は「運転している山本さん」の横顔を眺めてみたい気もしたけど、
さすがに初対面でいきなり二人並んでドライブ、っていう絵が
知美にとっては少し重荷で、
「山本さん」の手の辺りまでしか視線を泳がせることはできなかった。

「山本さん」は、自分から話しかけるようなタイプじゃなかったから、
どうしても知美が口火を切る。

「山本さんは、テレビの番組では何を見てるんですか?」

「・・・テレビですか?野球中継とか・・・」

「あ、野球、お好きなんですね?」

「いやぁ、好きっていうわけでもないけど、何だか部屋で本とか読んでても
周りで音がしてないと、落ち着かないような気がして。」

「あ、それ、わかるなぁ。
私も、だらだらテレビなんてつけてて、って母に叱られるんですけど、
結構何か音がしてたほうが、集中してトールの絵が描けたりしてね。」

「そうそう!」

くだらない話でも結構盛り上がる。

これでも知美は、大人しい「山本さん」に気を遣って、
一生懸命話を合わせているのだ。
それだけ緊張していると言ってもいい。

ふと助手席の窓を見やると、舗装した道路がどんどん狭まっていて、
ガードレールの向こうには小さな川が流れているのが見える。

ファミリアは、県境にあるダムあたりを目指して走っているらしい。

知美のヨイショが効いたのか、「山本さん」はつられたように
会社の上司の話だとか、仕事で行った出張先の話だとか
ぽつりぽつりと思い出したように話をする。

もっとも、知美にとっては退屈でしかない話だったのだが。

刺激が無いくらいのほうが、自分のしたいことだけできて
自分らしい生活ができるのかもしれない。
自由でいられるのかもしれない。
知美がそんなことを思うほど、「山本さん」は朴訥(ぼくとつ)とした青年のようだった。

そうこうするうち、ダムの駐車場にファミリアは入っていく。

「あれ?今日はダムの真ん中の噴水、出てないみたいですね?」

ダムの方を気にしながら、「山本さん」がパーキングスペースのラインに合わせてファミリアをバックさせる。

「噴水?あら、噴水があるんですか?このダム?
・・・・あ、あ、山本さん???あ、危ないですよ!
あ~~~っ」

知美が注意を促したというのに、ファミリアの左後方はラインを大きく斜めにはみ出して、
外灯の柱とごっつんこしてしまっている。

「あ、あれ~~~っ?ちゃんと見てたはずなのに。
失敗した!まっすぐ入れられなかったんだ。」

あわてて運転席から外へ出た「山本さん」は、
頭をかきながらファミリアの後方にまわってがっかりしているのだ。

もちろん知美だって初心者のうちは、
家の車のあっちをこすり、こっちをぶつけて、
やっとしたり顔で車を走らせるゴールド免許の運転手になったのだけど、
駐車するのに車をまっすぐに入れられないなんて、
「山本さん」も、もしかしてすごく緊張しているのかもしれない、と思った。

そんなふうに思えば、凹んだリアバンパーを残念そうに眺めて
意気消沈している「山本さん」が、
何やらかわいいようにさえ思えてくる。

「山本さん、初心者だもの、そんな傷のひとつやふたつ、屁でもないですよ!」

「え?」

「わたしだって、初心者のときなんて、家の車を何度こすって叱られたことか。
だいたい、あんまり傷つけるものだから、もう謝るのも面倒くさくなっちゃって、
なんて誤魔化そうか、いつも考えてましたよ。」

「知美さんもそうなんですか?」

「そうですよ。
一度なんて、サイドミラーを電柱にぶつけたら取れちゃってね。
父になんて言って修理してもらおうか、考えても名案が浮かばないから、
アロンアルファでくっつけておいたら、
後で電動ミラーが固定ミラーになって動かない、
ってひどく叱られましたもん。」

「と、知美さんって・・・」

「え?」

「ぷぷぷっ!
面白い人なんですね!」

「あ、あらっ!」

車をぶつけてがっかりしている「山本さん」を元気付けようと
自分の失敗談を夢中になって話している知美を、
どうやら「山本さん」はすっかり気に入ってしまったようだった。

そして知美も、この「外灯とごっつんこ事件」のお陰で
すっかり打ち解けた気分になり、
この人とならお付き合いしてもいいかな、なんて思ってしまったのだ。


(知美の場合(4)に続く)

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Marriage/知美の場合(2)

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知美は二人兄妹。
そう、兄が一人いる。

二つ違いだから、兄の雅史はそろそろ32歳になろうかというところ。

雅史が大学生、知美が短大生の頃、
東京の学校に通う二人は親元を離れて一緒に住んでいた。

特別中の良い兄妹でもなかったけれど、
「親元離れて二人暮し」ともなれば自然にお互いを頼るようになる。

知美が高校生で雅史が大学に入ったばかりの頃、
「おにいちゃん」のいない家の中はぽっかり穴の開いたようで、
妙に空々しい、そして妙に開放的な不思議な空間だった。

それから2年を経て、知美も雅史の後を追うように東京の短大に進んだときには、
「雅史と住むならば」という両親の条件があってこその
憧れのTOKYO生活だったのだ。

2Kの狭いアパート暮らしだった2年間は、
雅史にとっても、知美にとっても
「つまらない片意地張りっこの子ども時代は
どこにいっちゃったんだろう?」ってくらい
仲のいい兄妹になるチャンスだったらしい。

それから二人がそれぞれに学校を卒業し、
お互いに地元の企業に就職した後も
何かれとなく頼りあっているのも
あの2年間があったからだと知美は思う。

だから、2ヶ月前の晴れた日曜日に
雅史が同僚の容子を家に連れてきて
両親に会わせるなんてことになったのが
知美にとっては、至極ショックだったんだ。

話はとんとん拍子に進み、
秋には結婚式だという。

特別にブラコンというわけではない知美にとっても
兄にお嫁さんがくる、ということが
家族が一人増えるだけのことじゃないことくらい
よーくわかるのだ。

俗に言う小姑?

「あらら・・・あたし、小姑になっちゃう。」

兄の結婚が決まってからは
両親の知美に対する結婚の勧めも
以前より激化している。

「そりゃあ、小姑に同じ家の中に居られたら
容子の居心地も悪いわな。」

雅史のその一言が、知美の結婚意欲(?)を刺激したらしい。

「おかーさん、あたし結婚したいから
お見合いでも何でもするからよろしくね。」

知美の「結婚したい宣言」は
両親から満場の拍手を持って迎えられた。

「結婚したい宣言」をした二日後には
近所の飯沼のおばさんから、
母は写真を預かってきたのだ。

知美よりも3つほど年長のその人は、
メガネをかけた神経質そうな中肉中背の男で
「山本さん」という名字だった。

「山本さん」と知美は海の見えるレストランで紹介された。

飯沼のおばさんと母がついてきた。

しばらくとりとめのない話で飯沼のおばさんは
「山本さん」の学歴や 人となりを盛り上げ
知美のトールペイントの腕を褒め上げられて、
無愛想にならない程度には知美も努力したつもり。


「じゃあそろそろ二人でドライブにでも行ってきたら?」と勧められたのは、
食後の珈琲を飲み終えた頃だった。

「山本さん」の愛車は白のファミリア。

見れば、ハッチバックには若葉マーク。

「へー、山本さん、初心者なんだ。」
ワープロセンターに勤めていた22歳の時には運転免許を取得していた知美に、
その若葉マークはとても新鮮に映った。

というか、ちょっぴり不安?

かくしてお見合いは、後半へと進んでいくのである。

(知美の場合(3)へ続く・・・)

Marriage/知美の場合(1)

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「こんな簡単に決まっちゃうものなの?」

「決まるときゃ、パパっと決まるもんよ。」

知美はごろんとベッドに仰向けになり、
木目調の天井についた染みを眺めながら自問自答する。

「そりゃお見合いだけどさ、初めから相手の環境がわかってるっていうの?
そういうのもこれからの生活を考えたらいいことだと思うしさ。」

「でも、あんたってば相手のこと解ってる?」

「ん・・・どうかな。これから努力する!」

「努力って・・・これは結婚だよ?結婚!」

くるりと身体を返して、知美は枕に顔を埋めた。

「わかってるって!結婚するのよ、あたし。」


・・・・・・知美は29歳。
言わずと知れた「崖っぷちガール」。
「ガール」が「おばさん」になるのには、あと半年くらいはあるけれど、
例え今結婚が決まったとしても、これから結婚式の予約をするとなれば、
結婚式は半年後にはなるだろう。

去年、28歳で8年勤めたワープロセンターを辞めるとき、後輩の子たちが、
「先輩、本当にただの自己都合退職なんですか?」
「案外、もう結婚が決まってたりして!」
口々に知美にとってはキツイ言葉を連呼していた。

結婚?

親元から通っている知美にとって、「結婚」は特別心を震わせるような響きを持っていたわけじゃない。

結婚退職に限らず、退職したかったわけでもない。

ただ、職場がハイミスの存在を嫌がったからだ。

知美が勤めていたワープロセンターは、
地元企業が製作する製品の取扱説明書をPC処理する会社だった。

PCでワードやエクセルが出来れば、特に難しい仕事でもなかった。

結局、入社して5、6年経つと、秋口には上司から
「来年はどうするのか」の面接がある。

要するに態のいい肩たたき。

30代突入前には、20代になったばかりのぴちぴち新人と交代、というわけだ。

知美はそれでも結構長くいたほうで、自分が辞める理由もないのに、
何故辞めなければならないのか、といつも公言してはばからなかった。

だから、上司からの肩たたきも3回目にして、
「じゃあ 辞めます。」
と知美が言った時、苦笑いをしている上司の口元に、
心からほっとしたようなパァーっと会心の笑みが浮かんだのも無理はない。

それでも、ただ「辞めます」じゃなくて、
「じゃあ、辞めます」
とわざと「じゃあ」をつけただけでも、
知美としては反骨精神をつきつけたと思っている。

年齢で仕事をしてたわけじゃないんだから、こんなのって理不尽だ。

それ以後、知美は役所のアルバイトをしたり、
趣味のトールペインティングをしたりして、実家で悠々としている。

OL時代の蓄えが多いわけでもないけれど、実家にいれば生活に困ることもないし、それはそれで結構楽しいものだ。

「ニート」って言葉がTVとかで聞こえるたびに思うことは、
「あたしは違うわ。ニートじゃなくて、【花嫁修業中】なんだから。」

ただ、同年代の同僚や友だちが、次々と結婚退職だの出来ちゃった結婚だのしていくたび、
知美よりも知美の両親のほうが焦りを感じているらしかった。

「ねえ、知美。あなた、誰かそういう人はいないの?」

知美が短大を卒業後、地元のワープロセンターに就職した頃には、
ちょっとでも門限を過ぎて帰ると
「若い娘がお酒を飲んでこんなに遅く帰って来るなんて!」
すごい形相で怒っていた同じ親とは思えない。

いくら結婚する年齢がどんどん高年齢になっているらしい現代だって、
親にとっては年頃の娘をなかなか嫁に出せないのは世間体も悪いし、
増して知美は一人娘。
両親は婿取りをするつもりはないらしいけれど、
一人息子と一人娘ばかりが増えていく今の日本の状況を考えると、
焦る気持ちもわからなくはない。

だからといって、知美が一般的に男性にシカトされるお面や性格だというわけでもない。

しかし、意見を求められればはっきりとした物言いをしたり、
任された仕事はきっちりとこなす性格もさることながら、
一重瞼でストレートヘアの知美は、
「ちょっと怖いおねーさん」風に眺められることのほうが多かった。

そんな知美が「【結婚】でもしようか」と思ったのは、
本当につまらないきっかけだった。


(知美の場合(2)へ続く・・・)

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