2005-06

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vol.9 会いたい。

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「あすなろホーム」は、茨城県の南部に位置する東京のベッドタウンとなっている町並みから、程近い丘の上にある。
今日はクリスマスに近い日曜日とあって、ここの施設でもクリスマス会が、職員や高校生の園生たちによって始まっていた。

「あすなろホーム」とは私立の児童養護施設で、一応社団法人の名前はついているものの、ほとんど施設長(園長)の私財でまかなわれている。
ここには18歳未満で、保護者がいなかったり、保護者のもとで養育できない児童たちが入所している。
今、あすなろホームで保護されているのは15名。
来春は高校卒業を控える高校生がふたりほどいるから、新しい入所児童がいなければ、来年は13人に減る予定だ。

灯りを落とした食堂兼ホールに、今まさにサンタクロースが入ってきたところだった。

幼児や小学生が大喜びで拍手をしながら、サンタクロースの周りに集まっている。
長身のサンタクロースは、大きな袋からひとりひとりにプレゼントを手渡している。そのジェスチャーが可笑しくて、みんなが笑っている。

「ねえ、サンタさん。サンタさんって本当は、陸にいちゃんじゃないの?」
その中の男の子が、サンタクロースを見上げて訊く。
白い髭を左右にぶんぶんとふって、ちがうよ、というようにサンタクロースが否定する。

――施設長室。
「陸。いつもありがとう。今日も子どもたちは大喜びだったな。」
「いや、それが俺には一番だから。」
「どうだ?身体のほうは?」
「酒を飲むのが仕事だもの。肝臓が悪いのはしょうがないよ。」
「そうか。でも、たまには休肝日がなくちゃな。」
「・・・そうだね。」

ここ「あすなろホーム」は、蓮が福岡の施設で保護されていたときの施設長が、妻の頼子の実家の土地を借りて作った児童養護施設だ。
福岡の施設の施設長だったときには、雇われ施設長だったけれど、今は自ら陣頭指揮をとって子どもたちと接する、貧乏施設長だ。
トントン、とノックの音が聞こえて、返事を待たずに施設長の妻、頼子が入って来た。
「陸。大変だったわね。千葉から来る早々、サンタさんの大役は。」
にこにこ笑いながら、陸と施設長に暖かいココアを差し出す。
「かあさん。俺の好きなココア、覚えていてくれたんだ。」
「あら、当たり前でしょ。うちの長男はお酒だけじゃなくて、甘党なんだから。」
この人は変わらないな、と蓮は思う。
福岡の時からずーっとこんなふうに、優しく包んでくれていた。
親の居ない寂しさも、施設に帰れば吹き飛んだんだ。
学校に行っているときだけが、ひとりぼっちだった・・・。

「ああ、そうだ・・・」
施設長が窓際のデスクの引き出しを開けて、1通の手紙を出してきた。
「陸に話があるんだ。」
「?」
「陸。」
改まった様子で、施設長が切り出す。
「先週の月曜日、弁護士がきた。」
「弁護士?」
「そうだ。どうやら、お前の母親がお前を探しているらしい」
「母親・・・ですか。」
蓮にとって母親と言えば、頼子より他になかった。
頼子以外に生みの母親がいるということが、不思議な事のように思える。
「弁護士には、お前と相談していいと言わなければ、母親と会うかどうかはわからない、と言っておいたよ。」
「・・・」
「今すぐにとは言わないが、考えてみないか?」
「今更・・・」
「陸。」
「今更、どのツラ下げて俺の前に出てくるっていうんだ。」
頼子は黙ってうつむいている。
「俺にかあさんは二人いらない。」
「陸。」頼子が低い声で、蓮を呼ぶ。
「お母さんの気持ちも考えてあげなさい。」
「母親の気持ち?」
せせら笑う蓮。
「じゃあ、俺の気持ちは?」
「陸。」今度は施設長が蓮を制する。
「とうさん。自分の勝手で捨てた親には、捨てられた子どもの気持ちなんてわからない!今更そんな親が出てきたからって、ドラマみたいに仲直りしてハッピーエンドになんてなれないんだよ!」
「陸。いいんだ。会いたくなきゃ会わなくても。」
「・・・」
「ただ、そのヒトの願いは、お前にただ会いたいだけだそうだ。会って謝りたいそうだ。そのあとのことなんて考えちゃいないと思うがね。」
「・・・」
「まあ、しばらく考えてみるといい。返事は年が明けてからでいいよ。」
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今年初めての…

20050629180308
向日葵が、花開きました
カラ梅雨だと言いながら、西日本や新潟は大雨だし、今日の雨のあとの青空を見ると、梅雨明け?と思うくらいの清々しさです

「手」にまつわる・・・

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新ブログfc2「★yell★'s STYLE」からの最初のお題です。
思い起こせば、NAVERでTBC(トラックバッククラブ)を作り、初めてのお題も「手をつなぐ」でした。
ここで初心に戻り、通算20回目となるお題は、「手」にまつわる思い出や、あなたや誰かの「手」に寄せる想いなどをTBしていただけたらと思います。
さて、どんなお話が聞けるのやら・・・

トラックバッククラブが初めての方、(^オ^)(^ハ^)(^ツ^)(^デ^)(^ス^) ♪
TBC(トラックバッククラブ)はTバック大好きクラブ・・・( ゜o゜)ハッ基ぃ、一つのお題をトラックバックでつなぎ、盛り上げようというグループです。よろしかったら参加してみませんか?
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それでは、そろそろ★yell★の「手」にまつわる想いをお話しましょうか・・・

子どものとき、★yell★はストレスでよくお腹が痛くなる体質でした。
これはもう、気質と言ってもいいかもしれません。
宿題が終わらなかった、友達と喧嘩した、ってだけで、いつのまにかその日の朝にはお腹が痛くなってしまいます。
酷くなると熱まで出てきて、もうそうしたら学校はお休み。
今ごろクラスメイトは何時限目の授業だろうとか、給食はなんだったんだろうとか、そんなことが気になって。だったらムリしてでも学校に行けばいいのにね。
そういうときはいつも、背中を丸めてベッドに横になる★yell★のお腹を、母親が大きな節くれだった手で、優しくなでてくれていました。
その手の温もりからどんどん優しさが広がっていって、いつのまにか眠ってしまい、目が覚める頃には熱も下がっているという具合でしたね。

今、自分が母親になり、姫と王子が同じように腹痛を訴えるとき、★yell★もやっぱり、この手で二人のお腹をさすってやるのです。
Mr.マリックほどではないけれど、やはり手には気を込めただけパワーがあるのでしょうか。
あの頃の★yell★と同じに、いつのまにかお腹の痛みはどこかへか行ってしまうのですね。
うちの子どもたちも、★yell★の手が大好きです。
そしてまた、この主婦湿疹が出ている綺麗とはいえない★yell★の手でも、癒してあげられるという幸せを感じています。

「手」・・・それは誰かとつながれる幸せの手段。

o(゜◇゜o)ホエ?

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言わずと知れたさくらんぼ。
初夏の風物詩ですよ(〃゜∀゜)(゜∀゜〃)ネェー   
相方の実家から送られてきましたよ。
やっぱり本場もんはヾ(@⌒¬⌒@)ノ ウマヒィ !
・・・なのになのに!
なんなの?うちの姫と王子は!
さくらんぼよりも ↓の方がいいんですと!?
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なんだかわかります?
ビックリグミです。
うちで採れたんだけど、
子どもはこちらのほうが美味いらしい・・・
ア!(* ̄○ ̄)( ̄о ̄*)ホ!!

Vol.8 さよなら、東子。

一番いいのは、東子が自分から蓮に愛想尽かしをすることだ。
どうせ、携帯電話の着信拒否なんてしていても埒があかない。
まずは、わざと客とのお持ち帰りを頻繁にして、明け方やとっくに日が昇ったころ、疲れきって帰る。
東子の前で、客に営業の電話をかけ、甘い言葉をささやく。
当然、東子は不審に思うだろう。
俺がこんなオトコだってわかれば・・・東子だって、俺が初めてのオトコってわけでもないんだから。
それから、多少泣きが入っても、絶対に別れよう。
蓮は、あらかたそんな筋書きで東子との別れを演出しようとしていた。

筋書き通りに、蓮の行動が始まった。
ところが、東子は笑っていた。
「蓮も、随分と仕事に熱心ね。」
そんなことを言って、蓮に微笑む。
「初めだけさ、そんな笑っていられるのなんて。」
思うように東子が動いてはくれないと知った蓮は、次第に暴力までふるうようになっていった。

「どうしておまえは、へらへらと笑っていられるんだよ!」
「そんなことないわ。笑ってもいないし、蓮の思い過ごしよ。」
「いや、東子。おまえ笑ってるよ。俺に殴られながら笑ってるよ!」

悲しそうに蓮を見つめて、やはり東子は微笑んでいる。
あくまでも蓮を信じる東子に、蓮はイライラしていたんだろうか。

「おれに、愛想を、つかせよっ!」
「おれは、こういう、オトコなんだよ!」
「誰のことも、愛せないんだよ!」
「笑って、俺にへつらう、お前がいやなんだよ!」

壁際に追い詰められ、身体を丸めている東子を、蹴って蹴って・・・。
「それでも、あなたを愛してる!」
東子は絶叫したと同時に、意識を失った。
がくがくと顎を震わせながら、蓮は目の前が真っ赤に染まっていくのが見えた。
東子が、東子が死んでしまう!
蓮は、動かない指を無理やり動かして、「風花」の杜萌に電話をかける。
思うように番号がプッシュできない。
それでもやっと杜萌に電話が繋がったとき、蓮は泣いていた。
「杜萌さん!東子を、助けて!」
東子を傷つけながらも、蓮は自分自身をも鋭い棘で傷つけていた・・・。

東子は迎えにきた杜萌の車で、救急病院へ運ばれた。
階段から落ちたという杜萌の説明に、医師は不審そうな顔をしていたが、目を開けた東子自身がそれを認めたため、何も言わず入院の手続きをしてくれた。
入院は3日ほどだったが、退院の時にまた杜萌が迎えに来ただけで、蓮は見舞いにもいかずじまいだった。
東子を傷つけた蓮が、どの面下げて東子に会いにゆけるのか。

そして、東子の傷ついた心も身体も、ガラス細工のように砕け散るときが来た。
退院して確かに杜萌がマンションまで送っていったにもかかわらず、それから東子は忽然と姿を消した。

それが10月のことだった。
東子がいなくなってから1週間ほど経ったころだったか、「風花」に蓮を訪ねてきたひとりの中年女性がいた。
左目尻に泣きぼくろ。東子の母親だった。
東子の母親は、東子が中学生のときに父親と離婚して家を出たあと、再婚し、2児をもうけたという。だからといって、東子と疎遠になったわけでもなく、つかず離れず、東子が大学に入学し、独立して一人で住みたいと言った時にも、父親にそばに自分がいるからと掛け合って今のマンションを借りたらしい。

2週間近く東子と連絡がつかない、とマンションに寄って見ると、部屋は整理されてはいるものの、洋服類がほとんど見当たらない。
飾ってある写真立てには、ほとんど何も身に着けていない状態で、長髪の男と抱き合っている東子の笑っている写真。
母親にとっては目も背けたくなるような写真だったろう。
それでも、母親は知っている限りの東子の友達に連絡をとり、東子の居場所を知ろうとした。大学の友達で、東子といっしょにホストクラブに行った同級生から、蓮の話を聞いたという。

蓮は、東子の居場所などわかるはずがない、と東子の母親に言った。
では、わかったときには連絡を、と言って住所と電話番号を書いたメモを蓮に渡し、帰っていった。
「随分、あっさりと帰っていったもんだな。」
杜萌がくわえタバコで蓮に言う。
「やっぱり、いっしょに住んでない分、冷たいんですかねぇ」
「いや、蓮。それは違うぞ。」
「何がですか?」
「母親はどんなに離れていても母親。他に子どもがいたとしても、その子に代わる子どもも物もあるわけじゃないんだ。」
「そうですかねー。俺はそんなもん、信じませんね。」

東子と別れられたという安堵感と後ろめたさ。
今でも思い出す、左目尻の泣きぼくろ。

クリスマス近いこの時期に、あの東子の母親とすれ違うなんて・・・。
東子は何処にいるんだろうか。

今日のBRUNCH

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シラスと梅のチャーハン、冷やしトマトのサラダです
健康的ぃ♪

茉莉茶はいかが?

中国茶も花のお茶を好んで飲みますが、これはジャスミン茶。
「茉莉白龍珠」という商品名。
購入先は彩香(さいか) さん。
病み付きですよ、とっても。
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で、これがその茶葉。ころころしててかわいいでしょ?
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vol.7 泣きぼくろ。

信号待ちをする蓮の足元に、木枯らしが纏わりつく。
季節の移ろいは何処にいたって感じるのだけれど、あの福岡から上京して、歌舞伎町を追われ、千葉に移り住み、いつになったら終の棲家に辿り着くんだろうと、蓮を切なくさせる。

街には其処此処でクリスマスソングが流れている。
街ぐるみで、否が応でも年末に向けて気ぜわしさを煽り立てるつもりだな。
だいたいイベントそのものが、店や、メーカーの売上を上げるためのものなんだ。
クリスマス然り、バレンタインデー然り。
ま、うちの店も繁盛させてもらってるから、願ったり叶ったりだけど。
そうだ、クリスマスといえば、あそこにそろそろ行かないと。

蓮には、誰にも言った事がない秘密がある。
ホストとしての蓮ではなく、「沢村 陸」としての心の拠り所。
その拠り所を守るために、どんな仮面でもつけてみせる。
とにかく、俺は自分の店を持って経営者になるんだ。
オーナーとなって、自由にカネを遣える様になったら・・・!

そんなことを考えながら、蓮は信号が青になった横断歩道を歩いていく。

横断歩道を渡りきると、前面をガラス張りにしたテナントビルがある。
蓮の黒いコートや金髪や、冬色の衣服を身に纏った歩行者を映して、そのガラス張りの箱は天に向かって高々と伸びている。
蓮はふと立ち止まり、自分の後ろ側で怪訝そうに蓮を眺める、ガラスに映ったひとりの女を見ていた。
どこかで見た顔なんだが、どうも思い出せない。
思い出せそうで、名前も、どこで会ったのさえも思い出せない気持ちの悪さを胸に、蓮はそろそろと歩き出した。
ガラスの中の女の顔は、左目の下に泣きぼくろが一つ。50がらみの痩せた女。
泣きぼくろ・・・
はっと蓮は思い出した。
あの女は東子の母親だ。

千葉に来て、「風花」に入った頃、同年代のホストたちの中に現役の大学生が何人かいた。
女子大生のオイシイ話ばかりするので、「コンパするときゃ呼べよ」とからかっていたら、本当に誘われた。
まさか昼間には出られない顔だと言われるこのメンツで、女子大生とコンパをすればどうなるのかはわかりきったことだ。
そりゃすぐお持ち帰り決定になった。
「なんでお前ばっかり!」と非難轟々を背に受け、ストレートヘアを背中に垂らした今時の女子大生と彼女の部屋へ行ったのは、蓮にとっては至極当たり前のことだった。
「いただきまーす!」と言ったのが、自分だったのか、彼女だったのか。。。
とにかく眩しい陽射しをカーテン越しに感じて目を覚ましたのは、すでに次の日のお昼を過ぎた頃だった。
まだ隣でまどろむ彼女の首筋にキスをすると、夕べ脱ぎ捨てたらしい服を拾って、ゆっくりと身につけた。
気配で目を覚ました女子大生は、「もう行っちゃうの?」と毛布で身体を隠して半身を起こした。
左目のすぐ下に泣きぼくろ。それがたまらなく愛しくて。
「美味しかったよ。また、ね」
蓮はもう一度、今度はその泣きぼくろに軽くキスをして、部屋から出て行った。
振り返りもせずに。

蓮にとって、ごく当たり前のお持ち帰りだったのが、その夜からまた後悔する羽目になる。

「風花」の開店は夜の9時からで、それまでに店に入ればいいことになっている。
実際、店が稼動し始めるのは、10時前後だった。
だから蓮は、昼寝を終える夕方からそれまで、殆ど自分のマンションでPCをいじったり、「風花」の客にメールを入れたり、電話を入れたりといった営業をしている。
その営業の最中に、彼女からの携帯が入った。
女子大生は「藤崎 東子」といった。
「とうこで~す。ねえ、今日も来てくれるんでしょ?」
「無理だよ。昨日は店が休みだったけど、今日は今から出るからさ。」
「えー!でもぉ、終わったら来てくれるよね?」
「何時になるかわからないし、朝まで客につき合わされるかもしれないよ。」
「とうこ、何時でも蓮のこと待ってるww」
東子に言い負かされる形で、蓮の帰宅場所は東子のマンションに決定したようだ。
確かに夕べの東子は奔放で、蓮が普段客にしてさしあげるのと同じくらい、奉仕してくれたっけ。また今夜も、いや明け方か?味わうのも悪くはないな。
ちょっとしたスケベ心だった。
そして、また蜜の時を過ごし・・・

そんな蓮のスケベ心を見透かしたように、それから東子は連日電話してくるようになった。
しばらくすると、「風花」のオーナーの杜萌さんも、蓮の付き合いの悪さに、どうしたのか?と訝しげに見るようになる。
半同棲のようになりかけた二人に、杜萌さんからのチェックが入った。
「客にサービスできないホストはいらない。女がいるのはかまわないが、仕事に支障がでるならば別れろ」
もともと合コンのお持ち帰りが長引いただけだ。
東子はかわいいけれど、蓮にはもっと守らねばならぬものがある。
さて・・・どうやって斬るか・・・

vol.6 「もも」の場合。

担架に乗せられた「もも」の顔は蒼白だった。
ももの左手首には白い布が巻かれていて、それは既に赤いものがにじんでいる。
ももの名前を呼びながら、担架に寄り添って泣いている女は、ももの母親か。
ぼんやりとその風景を眺めていた蓮に気がつくと、その女は必死の形相で叫びだした。

「あんたね?ももをこんなふうにしたのは、あんたでしょ?」

「何だかこのごろ、ももが随分思いつめてると思ったのよ!ホストに恋なんかして!」

「何なのよっ!何か言ったらどうなの???」

「ももが死んだらどうするつもりなのよ!」

母親は言いたい事を吐き出しながら、蓮を両手でゆさぶる。
蓮はされるがままに、背中を廊下の壁に押し当てられていた。
「ママ、エレベータが来たよ!急いで!」
父親が走って呼びに来る。
蓮を汚いものでも見るように一瞥すると、母親の手を蓮から無理やり引き剥がした。
「ホスト風情を相手にするんじゃない。」
そのまま母親を抱きかかえながら、小走りでエレベータへ向かっていった。

廊下の壁にもたれかかったまま、蓮はつぶやく。
「ホストみたいな、か。ホスト風情、ですか。」
今眺めた、ももの左手首ににじんだ朱い色よりも、もっと紅いものが俺の中にも渦巻いている。憎しみや、悲しみや、理不尽な世間に対する怒り。
ももの父親はそれを蓮にぶつけられるから、まだ幸せじゃないか。
俺はそんなものがぐるぐると渦を巻いて心を締め付けるが、それをどこへもぶつけられやしない。
俺が何をしたというんだろう。
ももに何をした?

勝手に携帯の番号を調べてかけてきた、もも。
誕生日のプレゼントに、とカサブランカの花束を置いていった、もも。
カサブランカは嫌いだと言ったら、薔薇の花束を置いていった、もも。
それもやめてくれと言ったら、スィートピィを持って待っていた、もも。

どれも俺が頼んだわけじゃない。
俺が欲したわけじゃない。
どうしていつもこんなふうに、想いとは全然違うふうに展開していくんだろう。
俺の人生は。

蓮は、急にホストも、店も、すべてが鬱陶しくなった。
なにもかもが空しい。

翌日、蓮はマンションの処理を業者に任せて、新しいマンションを探して移り住んだ。
今度は今までのマンションとは駅から見て反対側の、やはり徒歩10分ほどの距離だ。
1LDKのそのマンションは、今度こそ蓮にぴったりの部屋だった。
キッチンはお湯を沸かす程度しか使いようがない、IHの1口コンロだったし、住人はというと、殆どがお水関係のホステスさんか、ホストさんか、というところだった。

これで隣にも気兼ねなく昼寝が出来る、と喜んだのも束の間。
引っ越して1週間もたたないうちに、あの「もも」の父親が「風花」にやって来た。

オーナーの計らいで、奥のオーナーの部屋を空けてもらい、対峙した。
あの事件の時の横柄振りは何処へやら、ももの父親は、神妙な顔つきでソファに座っていた。
蓮は、快活な様子で父親に尋ねる。

「娘さん、どうですか?」

「いや、命には別状はありませんでしたから。」

「そうですか。良かった。気になっていたんですよ」
          ・・・気になっていたのは、自分のことだけだ。
          男にネツを上げて、勝手にリストカットするなんてよくあることだよ。

「ああ、そうですか!娘も気にかけていただいて、さぞかし嬉しいでしょう」

「いえいえ、私のようなものが気にかけて、喜んでいただけるだなんて。やっぱり親御さんが一番ですよ。」
          ・・・自殺未遂しても、親が心配してこうしてホスト風情にまで会いに来る。
          どういうことで来たのかはわからないが、喧嘩を売りに来たわけではないらしいな。。。

「・・・あのー、その・・・もものことなんですが・・・」
「はい?」
「娘と、お付き合いしてはいただけないでしょうか?」
「?」
「ももはあれから、毎日泣いてばかりで・・・。あなたもすぐ引っ越してしまわれましたし、もう会えないと思って泣き暮らしております」
「・・・」
「出来れば、その・・・私たちもなんらかの援助をしたいとは思ってますんで、お店をやめて、ももと一緒になることを考えてはもらえないでしょうかねぇ・・・?」
「ホスト風情をやめろ、とおっしゃる?」
「そりゃぁ、地道にサラリーマンなんぞやっていただければ、私たちは何も申す事はありませんので。」
「・・・」
このおっさんは何か勘違いをしている。
ももが何を言ったのかは知らないが、随分な言いようだ。

「ねえ、もものパパさん。」
いきなり仮面をはずしたような、蓮の変わり様に、ももの父親がびくっとする。
「あのさぁ、俺、ももちゃんに何かしたわけじゃあ、ないのよ。あんたの娘は、勝手に俺の携帯番号を調べてかけてきて、誕生日を訊いたの。」
ももの父親は、二重の大きな目を見開いて声も出ない。
「そしたら、その誕生日に花束を部屋の前に置いてあってさ。次の日も、その次の日もだよ。」
蓮は右手の人差し指で、テーブルをとんとんと叩きながら続ける。
「あんまりうざったいから、やめてくれ、って言ったら、リストカットだよ。流行だからって何でもマネすればいいってもんでもないっしょ?」
「あ・・・」
「迷惑なんだよ。迷惑!わかる?女子高生にストーカーされてる俺の気持ち!」
「・・・こっちが下手に出れば、調子づきやがって・・・」
「え?なーんでーすかぁ~?ホスト風情に諭されるのが心外だってかぁ?」
「おまえのようなホストは、人間のクズだぁ!」
ゆでだこのように真っ赤になった顔をふるふると震わせ、ももの父親はドアを蹴って出て行った。
「くわばら、くわばら・・・」
蓮は、ももの父親の出て行ったあとの空気をぱたぱた週刊誌で払うと、にやりと右頬で笑い、今日の客にはいくら遣ってもらえるかなと胸算用しながらフロアーへ出て行った。

vol.5 隣のももちゃん。

夕方、携帯の着信音で目が覚める。
ん・・・いくらか眠ったみたいだ。
横になってもうとうととしか出来ずにいたのに、目が覚めたってことは眠ったってことだよな・・・。
鳴り続ける携帯を手にとって、着信番号を見る。
朝の番号だ。
隣の・・・ももちゃんって言ったっけ?
蓮は隣とを隔てるキッチンの方の壁を眺める。あの向こう側で、高校生のももちゃんが胸を高鳴らせながら携帯を耳に当ててるんだろう。
「はーい。お待たせ。」
「あ。あの、ももです。」
「はい」
「起きましたか?」
起きましたか、じゃなくて「起こしてしまいましたか?」だろ?
今の高校生は日本語もろくに喋れないのか?
日本の教育もまったく落ちぶれたもんだよ。
蓮は仕事柄、話し言葉には結構気を遣う。
飲み屋のおねーたまも、ホステスさんも、奥さまも(たまには母親くらいの歳もいるからな)、みーんな自分が女王様になりたいんだ。
蓮はかしずく召使でなくてはならない。
また、そうすることでその客が、結局は自分のリピーターになる。
高校を最後まで行ったか行かないかでこの世界に足を踏み入れた、蓮が覚えたただ一つの真実。それは金はどうしたら集まるかだった。

「・・・で、ももちゃん。用件はなんでしょう?」
「あの、あなたの誕生日が知りたいんです。」
ぷっ!と蓮は吹いた。
そして、適当にそれから1週間ほど後の日にちを言った。
「ありがとうございます!」
もっと話したそうなももちゃんだったが、今から出勤の準備をするからと言って電話を切らせた。
それが、疫病神が蓮に取り付いた日になった。

ももちゃんのことも、いい加減な誕生日のこともすっかり忘れた1週間後。
またも客に拉致されて、開放されたのはお日さまがとっくに一番高いところを回ってしまった後だった。
さすがに、眠い。
欠伸をかみ殺しながら、7階でエレベータを降りた。
・・・と、蓮の部屋のドアの前に、花束が置いてある。
ははぁ、ももちゃんだな。蓮は1週間前の電話を思い出した。
この花束はいつ置いたんだろう。
朝から置いてあるわけじゃないだろうな。それほど時間が経っているようには思えない。
今日は結構天気が良くて、11月の割りに暑かった。
この花束はしっとりとしてまだ瑞々しい。
あっ・・・と蓮は隣のももちゃんの家のドアを見る。
まさか・・・まさかとは思うが、ももの家の窓から蓮の帰ってきたのを見つけたのなら、蓮がエレベータで上がってくる間に、ドアの前に花束を置く事は可能だ。
蓮はももの家のドアが閉まっているにもかかわらず、ももの目がドアの隙間から蓮を覗いているような気がしてならなかった。

部屋に入って、花束をリビングキッチンのテーブルにどさっと投げる。
このカサブランカの花束が悪いわけではないけれど、俺は疲れているんだよ。
そう言いたかった。
ネクタイを緩めてベッドに腰を下ろした瞬間、携帯の着信音が。
ももの番号だ。
放って置いたが、いつまでも鳴っている。
留守番サービスに繋がったらしく、一旦切れたが、またすぐに鳴り出す。
ももは壁の向こうで、息を殺して蓮の携帯の着信音を聞いていることだろう。
諦めて、蓮は携帯を掴んだ。
「もしもーし!」
「あ、ももですぅw」
「ももちゃん、花束はももちゃんからかな?」
「はいっ!お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。っていうか、さ。俺、カサブランカ嫌いだから。」
そう言って、蓮は携帯を切り、電源もOFFにした。
携帯は客からかかってくるから、電源を切るわけにはいかなかったが、壁の向こうでももが蓮を覗いている恐怖には勝てなかった。
それから10時に出勤するまで、蓮は一度も携帯をONにはしなかった。

次の朝、ドアの前には薔薇の花束が置いてあった。
添えられたカードには
「蓮さん。薔薇の花になりたいです。もも」
と書いてあった。
かかってきた電話には前日と同じように
「薔薇の花は世界一嫌いだよ。だから置かないでくれ」
と冷たく言い放って、また携帯をOFFにした。

またその次の朝。
今度は、スィートピィの色とりどりの花束を抱えたももが、ドアの前で立っていた。
はにかみながら、蓮に花束を差し出す。
「蓮さん。スィートピィなら可憐な花でしょ?受け取ってください。」
モロに嫌な顔をして、蓮が冷たく言う。
「きみさ、毎日待ってられるとウザイんだよ。俺は仕事が忙しい。高校生にかまってる暇はないんだよ。」
悲しそうな顔をして、ももがめそめそと泣き出した。
「泣くな!ますますウザイんだって!」
頭がツーンと痛くなって、わざと蓮は音をたててドアをしめた。
ももの泣き声がいつまでも聞こえるような気がした。

夕方まで薬のお陰で何とか睡眠をとり、目を覚ますと、くわえ煙草でパソコンの電源を入れた。
「風花」にはホームページもあって、ホストの顔写真を載せたりしている。
蓮には多少PCの心得もあったせいか、備え付けのPCをいじるのはお手の物だった。
それをきっかけに面白そうだと蓮が自家用のPCを買いこんできたのは、ほんのちょっと前のことだ。
眠れないときに、お遊びでNETゲームなどを楽しんでいる。
今日も、最近凝っている対戦型の花札でもやろうかと思った。
花札の広場に入り、対戦をクリックしようとしたその時、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「近いかな?」
殆ど気にも留めずにいたが、どうやらマンションの前で救急車が止まったらしい。
ふと胸騒ぎを覚えた蓮は、ドアを開けて廊下に出てみた。
するとすぐに、ももの家のドアが大きく開き、ももの父親らしき男が慌てふためいてエレベータの方へと走っていった。
「まさか・・・!?」
救急隊員が担架に乗せて運んでいくのは、まさに「隣のももちゃん」だった。

vol.4 眠れない朝。

そのころ、蓮は千葉駅から歩いて10分ほどのマンションに住んでいた。
駅前の「風花」に通勤するのにも便利だったが、2DKというその間取りのせいか、入居者が殆ど「家族」というのには参った。
朝にはゴミ袋を持った主婦たちが、ゴミの集積場の辺りでたむろしている。
仕事帰りでどうしてもその横を通らなければならないのだが、しかたがない、「おはようございま~す」とか言いながら横をすり抜けようとすると、奥さま方は好奇心アリアリの目で連を見つめる。
「何の仕事をしているのかしら?」
「水商売?」
「きっとそうよね。朝帰りだもの」
「やっぱりお持ち帰りとかするのかしら?」
「あーら、されてみたいわぁ!」
「いやだわぁ!」
こんな噂話でもしてるんだろう。
ついでに、似合いもしないピンクのサンダルを履いたおばさんに流し目でもしてやったら、赤くなってやがる。
あんたたちが来られるような店じゃないんだよ。来るんだったら旦那の定期預金でも解約して来るんだな。
そんな事を嘯きながら、エレベータを使って7階に上がる。

上着のポケットからルームキーを出して、鍵穴に差し込みガチャガチャと回していると、右横から視線を感じる。
ふっと右を向くと、スーツ姿の高校生らしき女の子。
今から登校するのか、鞄を持っている。
不思議そうな瞳をして、蓮の様子を窺っている。
「おはよう。なに?」
思わず蓮が声をかけると、さーっと顔を紅潮させて「いえ、なんでも」と短く答えて、エレベータの方へと走っていってしまう。
ホストが珍しいのかな、何だ、もっとからかってやろうと思ったのに。

そういえば、「風花」に来る客が言ってたな。
「蓮、あんたって昼間歩く顔じゃぁないわよ。朝なんて顔を出したら犯罪よ」って。
犯罪?そんなにお日さまと相性が悪い顔なのか。
どう見ても、夜のお水っぽい顔なのかな。

そんなことがあって、2,3日が過ぎた頃だろうか。
やはり朝帰りをして、ベッドでうとうととしていると、携帯が着信音を鳴らした。
夕べの客が、朝までなかなか蓮を離してくれなかったから、また彼女からかもしれない。勝手にそう思い込んで「はいはい」と出てみる。
「・・・・・」
「はーい。蓮ですよ~」
「・・・・・」
「・・・?あれ?もーしもーし?」
「・・・・・」
ガチャッ!と唐突に携帯を切られた。
今のは誰だったんだろう?悪戯か?
ベッドの枕元に携帯を投げ出して、また横になる。
横になったからといって眠れるわけじゃない。
このごろは薬なしでは眠れないようになっていた。
不眠の原因が何だかはわからないが、食事だって殆どとらずに酒浸りの毎日だ。
健康という言葉が一番似合わない男だな。蓮はそんなことを一人ゴチながら、くっくっと含み笑いをした。
その時、また携帯が鳴った。
また間違い電話かもしれない。しょうがないな。今度はびしっと言ってやろう。
「もしもし?誰?」
「・・・・・」
「あのさぁ、間違い電話だったらごめんなさいして切るのが礼儀でしょ」
「・・・・・」
「いい加減にしてください。電話切ります。」
「あ・・・切らないで下さい・・・」
「・・・?」
「あ、あの・・・わたし・・・」
「誰?」
「隣に住んでる、もも、っていいます。」
「・・・!あ、もしかして、高校生?」
「はいっ!高校生のももです!」
「あー今さ、寝てるのよ。ももちゃん、また今度にして、電話さ。」
「はいっ」
元気な返事を残して、隣のももちゃんは電話を切った。

ふーっ。
長い溜息をついた蓮は、ベッドから半身を起こして、煙草に火をつけた。
暫く心地よいその紫煙を楽しんだ後、ふと気がつく。
あの子、隣のももちゃん。
どうやって、この携帯番号知ったのよ?
何だか、ばーさんから小便臭い小娘まで、よく俺に関わってくるよ。
どうでもいいけどね。

そんなことより、今はどうやったら安眠を手に入れるかだ。
薬だって度を超して飲んでいいわけはないし、何を食べても美味いだなんて感じられないこの身体。どうにかしなきゃな。
どうにかするったって、ああ、俺はもう何年こんな生活続けてきたんだろう。
いつかは朽ち果てるんだから、好きなことして死んじまえばいいのさ。
好きな酒をかっくらって、そのままくたばるのもいいさ。
どうせとうの昔に、この世の中から捨てられた俺だもんな。
店の客は、俺が居なくなれば金の遣い道に困って泣くだけだろう。
それだけさ。

vol.3 蓮。

千葉での生活は、今までの歌舞伎町より随分マシだった。
「風花」というそのホストクラブは、トップを争うようなホストもいなかったし、比較的自由なその店で、客とホストというよりも毎日が合コンをしているような感覚だった。
一昔前に比べると、ホストクラブ自体、有閑マダムしか足を踏み入れられない聖域ではなく、普通のOLでさえ興味本位で入店するのも珍しくはない。
勿論、お水のおねえたまたちも店を上がると、癒されたいと遊びに来る。
ここの同僚のホストたちも若い子が揃っていたから、毎晩が合コン気分だった。
また、「杜萌さん」と呼ばれるオーナーも気さくな男で、「argonaut」のオーナーの友人ということを別にしても、蓮にとっては兄貴分のような存在になっていった。

ある時、杜萌さんが蓮にこんなことを言った事がある。
「蓮は、笑っていても心から笑っているようには見えないな。」
「そうですか?そんなことないですけど。」
「客は敏感だ。お前の上っ面の笑いの奥にある何かを感じ取ってしまう。そうなると、何がお前をそうさせるのかが知りたくて、はまっちまうんだろうな。」
「俺、笑ってますよ。ほんと、心から。」
「いや、お前自身が気がついてないんだよ、きっと。だけどそれが出るのは年配の女性の時だな。」
「若い子には、心底笑ってるってことですか?」
「アルから聞いてた、あの事件の加害者が年配の女性だったよな。そのせいかとも思ったんだが・・・」
「・・・思い出したくもありませんよ、そのことは。」
杜萌さんが、申し訳ないというように蓮の肩を両手でポンポンと叩いて、「悪かったな。余計な事だった。」と謝って奥へ引っ込んでいった。
蓮は、自分の心の襞を杜萌さんに覗かれたような気がした。
「だけど・・・麗子のせいじゃないんだよな。」独り言がこぼれた。

蓮は、親を知らない。
いつ、自分がこの世に生まれ出て来たのか。
なぜ、自分には親がいないのか。
いつまで、この施設にいなければならないのか。
そんな悩みを抱えた、少年時代。
もの心ついたときには、福岡の施設で保護されていた。
蓮というのは源氏名だ。
本名を「沢村 陸」という。
名前だけは、赤ん坊だった蓮に添えられた手紙に書いてあったらしい。
「沢村」というのは、施設の園長先生の苗字だ。
だから、本当は「鈴木 陸」かもしれないし、「佐藤 陸」かもしれない。
でも、蓮にはそんなことどうでもよかった。
要するに、蓮は捨てられたのだ。
お前は邪魔だと、存在自体を生みの母にさえも疎んじられた。
施設の門扉の傍に、蓮を入れた篭を置き去りにした母。
会いたいとは思わないが、憎しみだけはどんどん募っていく。
蓮の誕生日は、施設に引き取られた日だ。
本当は生まれてから何年、何ヶ月、何日経っているのか、それは生んだ母しかわからないだろう。
偽りの誕生日を客に祝ってもらうたび、蓮はこの世に生まれ落ちた自分の運命を呪うのだ。嬉しそうに悲しい微笑で。

「風花」での蓮は、田舎ホストの中で、これもまた群を抜いて売上を伸ばしていた。
メスブタの札束ちゃんたちは、蓮の機嫌をとろうと、あの手この手で色を仕掛けてくる。
彼女たちは、金に糸目をつけなかった。
そして蓮も、その手管に乗ったふりをして、ロレックスの腕時計とかエルメスの財布なんかを、当たり前のように受け取った。
金銭感覚もあってないようなものだった。

「いつか自分の店を持ってやる。」
目的はただひとつ。
自分を見捨てた世間を見返してやることだ。
カネを湯水のように使い、この夜の帝王になるために。

カーネーションのお茶?

DVC00038s.jpg

最近凝っているのが、中国茶。
この康乃馨というカーネーションのお茶は花がそのまんまお茶になってます。
ほんとうの中国茶(かどうかアヤシイけど)って美味しかったのね!
ウーロン茶なんて市販のペットボトル入りは黒っぽいじゃないですか。
それなのにここのお茶なんて薄い緑茶の色なんですよ
ホント、目からうろこです。
 

雨の匂ひ。

20050618ajisais.jpg

FC2では はじめまして。
こんばんは。★yell★=エールです(o*。_。)oペコッ

今日は雨の朝でした。
元気なのは庭の植物だけ。
それでも、雨の匂いって嫌いじゃない。
季節感があって、梅雨空もいいもんです。

vol.2 愛のために。

それからの蓮といったら、オーナーも舌を巻くほどの仕事振りだった。
涼しい眼で長身の蓮が微笑めば年配の客は胸がきゅんとなるし、普段はニヒルなイケメンがほんのちょっとでもふざけて見せたりすれば、クラブのホステスまでも自分だけに見せる普段着の蓮を想像する。
「argonaut」での蓮の人気がうなぎ登りとなるのは当然だった。
ところが心中穏やかでないのが、ホスト仲間たちだ。
客の指名換えはできないのが店の掟。
しかし、いくら経営側で指名換えを禁止していようが、客自身が「蓮を」と言えば逆らえるわけはない。
お客様は神さまだ。カネのなる木なのだ。
蓮はその掟の例外によって、他のホストの客を次々と自分の客にしていく。
穣を始めとするホストたちは、蓮のヘルプにつくのをわざと避けるようになった。
店に蓮を指名する客たちがブッキングするようになると、それまで好意的だったオーナーも眉をひそめるようになる。そのころは客同士でも、蓮を巡って指名のいざこざまで起こるくらいだったのだ。

そんなある日。
蓮は「argonaut」の目と鼻の先にある「クラブりべら」の売れっ子娘「みゆ」と同伴した。
「みゆ」をエスコートして店に入ろうとすると、紫色に怪しくライトアップされたargonautの文字が急に暗くなった。
「看板のライトが消えてしまったのか」と蓮が思ったときには、もうすでに下腹部に銀色の光るものが吸い込まれていた。
ナイフで刺されたのだと気がついたのは、蓮の長身がゆらゆらと落ちて行き、初夏の生暖かいアスファルトに沈みこんでしまってからだった。
腕を組んでいた「みゆ」は、まるで闇の中に潜む怪物を見つけたときのように声も出ず、ただ喉の奥から「ひゅーひゅー」という息を漏らしていた。
同伴していた蓮が倒れてしまった今は、自分自身しか自分を守るものはないはずなのに、誰かが助けてくれるのではないかと慌てて回りを見回す。
回りを囲むほろ酔いの客やホステスたちも、なすすべもなくポカンとして蓮を遠巻きにしているだけだ。
そのとき、「argonaut」の扉が外側に開いて、上機嫌の奥様たちを送り出そうと店のホストたちが出てきた。
目ざとく蓮を見つけた新米のホストが、「蓮さん!」と叫んで・・・それからが阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
蓮の前に放心状態で立っているのは、大町麗子だった。
いくら貢いでも貢ぎきれない蓮に業を煮やし、また夢とリアルを認識できないほど麗子は疲れ果てていた。
すべては蓮のために。
何もかも、蓮のために。
何度「argonaut」に足を運んでも、売れっ子の蓮は3分と座っていてくれたためしはない。
指名で呼ばれるたびに、あちらの席、こちらの席へと移動していく蓮。
「大町さま、少し待ってくださいね。若い子をちゃちゃっとやっつけて戻ってきますからね!」
けれど、蓮がいくら麗子に笑いかけてくれたとしても、自分だけのものではないのだ。
宝石商の夫の預金を使い込んだ挙句に、売れっ子の蓮は自分の手を離れていってしまった。
麗子はそう思っていた。
蓮と一緒に死んでしまおう。本気で思ったのだ。
そう、本当にふたりで天国へ・・・!

結局、蓮は1ヶ月の入院を余儀なくされ、「argonaut」は売れっ子ホスト蓮を失うことになった。
客に愛想をふりまくのがホストの仕事とはいえ、ワイドショーや週刊誌にまで蓮の事件はとりあげられてしまった。そのまま「argonaut」に蓮が復帰できる道理はなかった。

窓の外は細かい雨が降り続いている。紫陽花もこの世の春を謳歌しているようだ。
蓮がベッドに横になっている傍ら、オーナーが丸イスに座っている。
「悪いな、蓮」
「・・・」
「これ以上、客をたらしこんで全財産を巻き上げるような、悪いホストクラブの汚名を着せられたくないんだ。」
「客をたらしこむホストですか・・・」
「いいか、蓮。客に店の中で天国を見せてやれるのは、勿論ホストの最高の仕事だよ。客が求めている天国がargonautなんだからな。」
「俺・・・」
「ただし、何でもやりすぎは禁物だ。若いおにいちゃんに夢を託して、願いがかなわないとなると一生を台無しにしちまうような奥様方も出入りしてるんだからな。」
「そんなの客の勝手っすよ。俺は与えられるものは与えてた。」
「まあいい。お前は愛情というものがまだ判ってないんだ。愛は憎しみだって生むものだ。」
ぷい、と向こうを向いてしまう蓮に、オーナーが続けて言う。
「お前、argonautを出たら、行くところないんだろ?俺の友だちが千葉で同じような店をやってるんだよ。行ってみないか?」
「・・・行くも行かないもないっす。俺・・・退院しても店のアパートにしか戻れないし、店に出られないとなれば、そこだって引き上げるしか・・・」
「そうか。それじゃぁダチに連絡つけておくよ。早く傷が良くなるといいな。」

蓮が退院して千葉に移り住んだのは、その年の夏だった。
22歳の盛夏・・・。

vol.1 そのオトコ危険につき。

「なんだと!この野郎っ!」
鋭い罵声とともに、金属にモノが叩きつけられたような音が響き、それまで賑やかにざわめいていた店内が水を打ったように静まり返った。
女性客たちは不安そうに顔を見合わせた。彼女たちのそれぞれの首、耳、指には高価そうに輝くアクセサリーが揺れている。
女性客と同じテーブルで接客中の男たちも、中腰になる。

店の中ほどで、長身の黒づくめの男が立ち上がり、軽く笑みを浮かべて客に向かって声をかける。この店のオーナーか。
「みなさん、大変失礼いたしました。ロッカールームに迷い込んだネズミでも退治した音でしょう。どうぞそのままで。」
女性客たちはほっとしたようにまた深々とソファに腰を静め、男たちもホストの顔に戻っていく。
ここはホストクラブ【argonaut】。

ホストたちの控え室、ロッカールームでは細身で中背の女性的な顔をしたホストが仁王立ちになっていた。
「おいっ!今度俺の客を横取りするようなことをしたら、この町には居られないようにしてやるからな。覚えておけよ!」
白い顔を朱に染めて、吐き捨てるように言う。
ロッカーに背を叩きつけられて転がっているのは、金色の長髪の男だ。
細身のホストに殴られて、唇からは赤いものがにじんでいる。
思ったより長身の身体をそっと起こして、紫色のスーツの汚れを両手でぱんぱんと叩く。
左手で唇の汚れをぬぐうと、細身のホストよりは20センチほど高いところから見下ろして慇懃に言う。
「わたしは大町さまを横取りなどしてはいませんよ。大町さまがわたしに用事があるというので、約束の場所に行っただけのことです。」
「けっ!何を言ってるんだよ。あのメスブタからたいそうなプレゼントを貰ったそうじゃないか。店の外で会おうなんてこの店の規則にも違反してるだろう?」
「同伴は違反じゃないはずですが。」
「店で遊ばせてやるのがホスト風情の仕事だろう!モノにつられてホイホイ出て行ってんじゃねーよ!」
「時計の100万程度、穣さんだっていただいてるんじゃないですか?」
「へー貢物は時計だったのか?大町のメスブタも持ってるもんだな!」
「そのメスブタにご執心なのは、穣さんでしょう。」
「てめぇ・・・!」
長身のホストはロッカーをひとつ開けて、扉についた鏡で顔の傷を調べる。
「穣さん、わたしはこれから指名が入ってます。これ以上暴力をふるうのならオーナーに話しますし、この傷、残っちゃったら穣さんに責任とってもらわなきゃなりませんよ。」
唇の横の傷を指でそろそろと触りながら痛そうな顔をして、しかしきっぱりと言う。
「ぐ・・・」
「それに今からの指名は、他ならぬ大町さまですからね。わたしのこの傷をみたら、なんて言うか・・・」うすら笑いを浮かべて畳み掛ける。
そのとき、黒ずくめのオーナーがロッカールームに入ってきた。
「あ、オーナー」救いを求めるように細身のホストがオーナーを見る。
「穣、おまえ今日は上がれ。」
「ぇ?」
「さっきの蓮を殴った音、フロアに丸聞こえだ。」
細身のホストは、思いがけない事を聞いたように目を見開いた。
「それに今、大町さまがいらして蓮を指名している。今日は上がれ。」
くやしそうに唇をかみ、紅潮した頬をもっと赤くして、穣はロッカールームから出て行った。
まだ鏡を見ている蓮にオーナーが声をかける。
「おい、蓮、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよ。」
「客の取り合いはやめてくれよ。穣は穣でこの店では古株だ。客も沢山持ってるんだからな」
「穣さんより、客を増やしてみせますよ。」
「頼もしいな。」
ふっ、と唇をゆがめた笑いを漏らすと、蓮は唇の横をぺろっと舐めてフロアへと出て行った。

**********************************************

その白い天井は一点のシミもなく、ただひたすら白かった。
蓮の首に回した腕を、無理やり自分の方に引き寄せ蓮の唇に自分の唇をつける。
脂肪のうっすらとついた身体を恥ずかしげもなくさらしているのは、店の客だ。
蓮はその女にされるがまま、ただ天井だけを眺めていた。
「ねぇ、わたしみたいなおばあちゃんとこんなことして平気?」
「大町さまはおばあちゃんなんかじゃありませんよ。」
心の中でどんなことを思っていたとしても、蓮の口をついて出るのは相手を喜ばせる言葉だけだ。
いや、彼女の皺に埋まった白粉だらけの顔でさえも、蓮には札束にしか見えてはいない。
「ね、蓮はどこで生まれたの?」
蓮のからだをまさぐりながら、彼女はうっとりしてささやく。
「・・・」
蓮は暫く躊躇したが、すぐに大町麗子の身体をくるっと回して自分が上になり、今度は蓮が麗子にささやく。
「天国ですよ。」
「あははは・・・!蓮ったら。」
「そしてまた天国へ帰っていくんですww」
「そうね。天国へ連れて行って!」
それからは麗子にとっての天国へと・・・

蓮の胸算用では、大町麗子はきっと自分にとって大きなBackUpになるはずだ。
いい目をみせておけば、店の1軒くらい持たせてくれるかもしれない。
そのためならば、どんな女とも寝るさ。そう、どんなに貪欲なメスブタともね。
汚いなんて思いやしない。俺は札束と寝てるんだ。

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i08-06.gifyellのこと

 北関東の地方都市に住んでいます。
 フィギュアスケートとネットサーフィンが大好きです。

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