2017-07

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vol.5 隣のももちゃん。

夕方、携帯の着信音で目が覚める。
ん・・・いくらか眠ったみたいだ。
横になってもうとうととしか出来ずにいたのに、目が覚めたってことは眠ったってことだよな・・・。
鳴り続ける携帯を手にとって、着信番号を見る。
朝の番号だ。
隣の・・・ももちゃんって言ったっけ?
蓮は隣とを隔てるキッチンの方の壁を眺める。あの向こう側で、高校生のももちゃんが胸を高鳴らせながら携帯を耳に当ててるんだろう。
「はーい。お待たせ。」
「あ。あの、ももです。」
「はい」
「起きましたか?」
起きましたか、じゃなくて「起こしてしまいましたか?」だろ?
今の高校生は日本語もろくに喋れないのか?
日本の教育もまったく落ちぶれたもんだよ。
蓮は仕事柄、話し言葉には結構気を遣う。
飲み屋のおねーたまも、ホステスさんも、奥さまも(たまには母親くらいの歳もいるからな)、みーんな自分が女王様になりたいんだ。
蓮はかしずく召使でなくてはならない。
また、そうすることでその客が、結局は自分のリピーターになる。
高校を最後まで行ったか行かないかでこの世界に足を踏み入れた、蓮が覚えたただ一つの真実。それは金はどうしたら集まるかだった。

「・・・で、ももちゃん。用件はなんでしょう?」
「あの、あなたの誕生日が知りたいんです。」
ぷっ!と蓮は吹いた。
そして、適当にそれから1週間ほど後の日にちを言った。
「ありがとうございます!」
もっと話したそうなももちゃんだったが、今から出勤の準備をするからと言って電話を切らせた。
それが、疫病神が蓮に取り付いた日になった。

ももちゃんのことも、いい加減な誕生日のこともすっかり忘れた1週間後。
またも客に拉致されて、開放されたのはお日さまがとっくに一番高いところを回ってしまった後だった。
さすがに、眠い。
欠伸をかみ殺しながら、7階でエレベータを降りた。
・・・と、蓮の部屋のドアの前に、花束が置いてある。
ははぁ、ももちゃんだな。蓮は1週間前の電話を思い出した。
この花束はいつ置いたんだろう。
朝から置いてあるわけじゃないだろうな。それほど時間が経っているようには思えない。
今日は結構天気が良くて、11月の割りに暑かった。
この花束はしっとりとしてまだ瑞々しい。
あっ・・・と蓮は隣のももちゃんの家のドアを見る。
まさか・・・まさかとは思うが、ももの家の窓から蓮の帰ってきたのを見つけたのなら、蓮がエレベータで上がってくる間に、ドアの前に花束を置く事は可能だ。
蓮はももの家のドアが閉まっているにもかかわらず、ももの目がドアの隙間から蓮を覗いているような気がしてならなかった。

部屋に入って、花束をリビングキッチンのテーブルにどさっと投げる。
このカサブランカの花束が悪いわけではないけれど、俺は疲れているんだよ。
そう言いたかった。
ネクタイを緩めてベッドに腰を下ろした瞬間、携帯の着信音が。
ももの番号だ。
放って置いたが、いつまでも鳴っている。
留守番サービスに繋がったらしく、一旦切れたが、またすぐに鳴り出す。
ももは壁の向こうで、息を殺して蓮の携帯の着信音を聞いていることだろう。
諦めて、蓮は携帯を掴んだ。
「もしもーし!」
「あ、ももですぅw」
「ももちゃん、花束はももちゃんからかな?」
「はいっ!お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。っていうか、さ。俺、カサブランカ嫌いだから。」
そう言って、蓮は携帯を切り、電源もOFFにした。
携帯は客からかかってくるから、電源を切るわけにはいかなかったが、壁の向こうでももが蓮を覗いている恐怖には勝てなかった。
それから10時に出勤するまで、蓮は一度も携帯をONにはしなかった。

次の朝、ドアの前には薔薇の花束が置いてあった。
添えられたカードには
「蓮さん。薔薇の花になりたいです。もも」
と書いてあった。
かかってきた電話には前日と同じように
「薔薇の花は世界一嫌いだよ。だから置かないでくれ」
と冷たく言い放って、また携帯をOFFにした。

またその次の朝。
今度は、スィートピィの色とりどりの花束を抱えたももが、ドアの前で立っていた。
はにかみながら、蓮に花束を差し出す。
「蓮さん。スィートピィなら可憐な花でしょ?受け取ってください。」
モロに嫌な顔をして、蓮が冷たく言う。
「きみさ、毎日待ってられるとウザイんだよ。俺は仕事が忙しい。高校生にかまってる暇はないんだよ。」
悲しそうな顔をして、ももがめそめそと泣き出した。
「泣くな!ますますウザイんだって!」
頭がツーンと痛くなって、わざと蓮は音をたててドアをしめた。
ももの泣き声がいつまでも聞こえるような気がした。

夕方まで薬のお陰で何とか睡眠をとり、目を覚ますと、くわえ煙草でパソコンの電源を入れた。
「風花」にはホームページもあって、ホストの顔写真を載せたりしている。
蓮には多少PCの心得もあったせいか、備え付けのPCをいじるのはお手の物だった。
それをきっかけに面白そうだと蓮が自家用のPCを買いこんできたのは、ほんのちょっと前のことだ。
眠れないときに、お遊びでNETゲームなどを楽しんでいる。
今日も、最近凝っている対戦型の花札でもやろうかと思った。
花札の広場に入り、対戦をクリックしようとしたその時、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「近いかな?」
殆ど気にも留めずにいたが、どうやらマンションの前で救急車が止まったらしい。
ふと胸騒ぎを覚えた蓮は、ドアを開けて廊下に出てみた。
するとすぐに、ももの家のドアが大きく開き、ももの父親らしき男が慌てふためいてエレベータの方へと走っていった。
「まさか・・・!?」
救急隊員が担架に乗せて運んでいくのは、まさに「隣のももちゃん」だった。

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